第5章 聖なる夜に、愛が降る ( 千 生誕 )
『私は千と行きたいのに』
「でも僕は、外へは行きたくない。だったら、そういう所に出掛けるのが好きなモモと行けばいい···僕が言ってること、なにか間違ってる?」
愛聖だって、人混みが苦手な僕と行くよりも、そんなのお構いないでワイワイ楽しむモモと出かける方が嫌な思いしないだろ?
そう思って、言っただけなのに。
そしたら急に怒り出して。
『もういい!千のわからず屋!!ばかっ!』
···ここに至るわけだけど。
ー こういう時はユキが追いかけなきゃダメなんだよ?! ー
本当はそれくらい分かってるさ。
だけどあの時、僕の話をもう少し冷静に聞いて欲しかったのに、言葉に出す前に愛聖が飛び出して行ってしまって。
モモのいる手間、必死に···なんて動けなかった。
いや、違うな。
追いかけなかったのは、僕の甘えだ。
愛聖なら、きっと戻って来てくれる。
モモが説得すれば、とか、そんな···甘え。
さっきとは規模の違うため息を吐いて、ひとり、バルコニーへと出る。
この時期特有の冷たい風に髪を靡かせながら、辺り一面に輝く煌びやかな街明かりを見下ろして、モモは愛聖に追いつけたんだろうか···なんて、また息を吐いた。
ねぇ、愛聖···知ってた?
今年のクリスマスは···特別だってこと。
お前とちゃんと過ごす···初めてのクリスマスだってこと。
偶然にもイブが僕の生まれた日でもあって、子供の頃はクリスマスと誕生日が重なってて···とか、何でこの日に生まれたんだろうとか思ってたけど。
今は、それにも感謝してる。
自分の大事な日に、お前と過ごせるんだから。
とびっきりのプレゼントだって用意したのに。
それなのに、あんな風にケンカになるなんて···神様どころか、サンタクロースだって驚くよ。
ポケットに入れたままのスマホに、モモからのメッセージが届く。
ー マリーには追いついたけど、今夜はこのままマリーを家まで送り届けてオレも帰るよ ー
そんなメッセージを見て、またひとつ大きく息を吐く。
返信の内容を何度も打ち直し、結果···分かった、僕はもう寝る···とだけ送信した。
明日になったら、少しは機嫌が直ってるといいけど。
そんな事を思いながら···部屋へと戻った。