第5章 聖なる夜に、愛が降る ( 千 生誕 )
『もういい!千のわからず屋!!ばかっ!』
静かな夜更けに、派手な音をさせながら愛聖が僕の部屋を飛び出して行く。
百「ちょっとマリーってば!!···ユキ!追いかけないの?!」
「···行かない。荷物も上着もしっかり忘れず持って行ったんだから、寒空に凍える事もない。気になるんなら、モモが追いかければ?」
百「もう!ユキのバカ!こういう時はユキが追いかけなきゃダメなんだよ?!」
そんなの、分かってる。
けど、僕は悪くないと思ってるし、悪くないって思ってるのに、どうして僕が追いかけなきゃ行けないんだ。
ソファーに置いていた上着を引っ掴んで、モモが愛聖を追いかけて玄関を飛び出して行くのを黙って見送りながら、ひとりだけになった部屋でため息を吐いた。
そもそも、なんで愛聖はあんなに怒ってたんだ?
せっかくのその日をおかりんがスケジュールオフにしてくれたから、僕の部屋でのんびり過ごせばいいって思っただけなのに。
急に不機嫌になった愛聖の顔を思い浮かべながら、とっくに冷めてしまったカップに口を付ける。
確かさっきは···
『千、ホントのホントに24日はオフなんだよね?』
「···そうね」
『じゃあさ、その日···イルミネーション見に行こうよ?テレビで特集してたやつ、凄くキレイだったんだぁ···』
「却下。せっかくのオフだって言うのに、わざわざ人がたくさんいる所に出向く意味が分からない」
ただでさえお互い忙しくて、愛聖とゆっくり同じ時間を共有するなんて出来ないって言うのに。
『だって私たちが同時にオフなんて、滅多にないのに』
「だからこそだろ?お互いそこそこ名の知れた人間なんだから、そんな人が集まるような所に出掛けたらなに言われるか、どう書かれるか分からない」
『ちょっとだけ、行こうよ?きっとキレイだよ?』
「行かない。寒いの苦手」
『ちゃんと寒くないようにすれば大丈夫じゃん?』
「ムリ。興味ない」
『どうしてもダメ?』
「しつこい」
『ねぇ、千?』
「なんと言おうと僕は行かない。そんなに行きたいんだったら、モモと行けば?僕がオフなんだから、モモだってオフなんだし」
百「えっ?!オ、オレ?!」
僕たちの言い合いに急に巻き込まれたモモが、目を点にしてこっちを見る。