第4章 一織には負けねーからな!! ( 和泉 三月 )
万「とにかく、抱えてでも連れて行くしかないな」
そう言って万理さんが抱き上げようとすれば、また愛聖は嫌がって抵抗を始めた。
一「仕方がありませんね。私が説得します···佐伯さん、あなたはこのままずっと病院にも行かずにウイルスを巻き散らかすんですか。ここには七瀬さんだっているんです。伝染ったらどう責任を取るつもりですか」
うわぁ···病人相手にキッツイなぁ一織は。
でも、その一織のキツイ言葉に愛聖がピクリと反応してる。
一「急な発熱の症状は、処置が遅くなればなるほど厄介なんです···分かりますね?」
『···はい』
一「大神さん、車はどこですか」
万「あぁ、それならもう下につけてあるよ」
一「分かりました、連れていきましょう。佐伯さん、ちょっと失礼します」
涙目になりながらも、愛聖は黙って小さく頷いた。
壮「さすが···と言うべきなのか」
一「しっかり捕まっていて下さい。逢坂さん、すみませんがドアを押さえて貰えますか?大神さんはそのまま車へ。マネージャーは佐伯さんの受診に必要な物をお願いします」
一織のひと言でみんなが動き出す。
なんか、悔しいよなぁ。
最初に愛聖の様子を見に来たのは、オレなのに。
それに、軽々と愛聖を抱き上げる一織の姿も···なんか···モヤッとする。
「なんて、オレはなにやってんだろ」
ポツリと言葉が零れる。
一「兄さんは、病院から戻って来た時に何か食べられる物を用意してあげて下さい···兄さんの作る食事があれば、きっとすぐに回復するでしょうから」
「そんなんで回復したら医者いらねーだろ」
半ば不貞腐れるように言えば、一織はフッと小さく笑ってオレを見る。
一「兄さんの作ってくれた料理で、私は元気に回復しましたよ?」
「なっ···」
···やられた。
小悪魔一織が出た。
あんな風に言われたら、これ以上グゥの音も出ないじゃんか。
「分かった···そっちはお前に任せるから、飯はオレに任せとけ」
一「お願いします。佐伯さん、行きますよ」
『···はい』
一織の肩越しに、まだうっすら涙目の愛聖と目が合う。
そんな不安そうな顔に、オレは頑張れ!と親指を立てて見せた。