第2章 私を乱さないで下さい··· ( 和泉 一織 )
兄さんが優しく声をかけても、なお首を振るばかりで降りてくる気配は全く見られない。
「困った人ですね。自分で降りれないなら、私がそこまで登って手を貸します。分かりましたか?」
制服のジャケットを兄さんに預け、動きやすい様にネクタイを緩めてシャツのボタンを2つ開ける。
環「うわ。なんかソレ、いおりんエロい···」
「こんな時に何を言ってるんですか、私にエロさを求めないで下さい。それより四葉さんと兄さんは、念の為に脚立を押さえて。じゃ佐伯さん、登りますよ?」
『え?だ、ダメ!いや、来ないで···怖い』
「そんなカワイ···コホン···情けないこと言ってもダメです。とにかく登りますよ」
私が脚立を一段登る度に、小さく揺れる事に怖がる姿が、堪らなくかわいらしいと思ってしまう。
私よりいくつか年上だというのに、それはちょっとだけ···反則です。
「さ、ここまで来たら腹を括る事をお勧めします。私に捕まって下さい」
『う···』
「怖いなら下を見ない方がいいですよ。そうですね···目を閉じるか、逆に天井でも見てて下さい」
『···分かった』
佐伯さんの腕を自分に巻き付かせ、体を抱えるように私も佐伯さんの背中に腕を伸ばす。
「いいですか、一段ずつ降りますよ」
そう言って顔を見れば、想像以上に近い佐伯さんと目が合ってしまう。
「私の顔に何かついているのですか?」
『あ···ごめんなさい。じゃあ、見ないようにするね』
···って!
この状況とこの距離で目を閉じるとか!!
環「いおりん···マリーとキス、しそう」
「何言ってるんですか四葉さん!」
三「環、いまそんなこと言ってる場合じゃないぞ」
柄にもなく少しだけ動揺しながら、これで二人とも脚立から落ちたら元も子もない、と我に返る。
冷静に···冷静にならなければ。
いくら体を密着させているといえ、これはあくまでも救助です。
助けに向かった方まで巻き込まれたら意味がありません。
邪念を振り払って、ゆっくりと一段ずつ降りていく。
環「おー···いおりん、あと少しだぞ」
三「気をつけろよ一織?」
「分かってます。佐伯さん、あと二段です」