第2章 私を乱さないで下さい··· ( 和泉 一織 )
盛大なため息を漏らしながら兄さんを見て、それから佐伯さんを見上げる。
三「叱責って、なぁ。んで、愛聖はそこで一織に怒られるほど何したんだ?」
『それは、その···』
モゴモゴとしながら佐伯さんが兄さんに事の経緯を説明する。
三「なんだそんな事か?もうちょい待ってれば一織や環、オレだって帰って来るっつーのに。それに愛聖、お前は高い所が怖いんじゃなかったっけ?」
そう···そこですよ。
普段はビビりで高い所になんて登ったりしないのに、なぜ今日は脚立まで持ち出してまで作業をしようとするなんて!
三「ほれ、足が竦むほど耐えてたんなら降りて来いって、オレが取り替えてやっから」
環「そーいやマリー、どんくらいそこにいたの?」
『えっと···さ、30分くらい、かな?』
「30分も?!あなたやっぱりバカなんですか!!」
三「こら、一織!」
思わず叫んだ私に、兄さんが宥めに入る。
「兄さんは黙ってて下さい。佐伯さん、そんなに時間が経つほどひとりでそこにいて、それこそ誰もいない時に何かあったらどうするんですか!!」
『ごめんなさい···』
環「いおりん言い過ぎだって!···マリー泣いちゃったじゃんか」
勢いのままに言って四葉さんの言葉でハッと我に返ると、脚立の上で涙目になってる佐伯さんが見えた。
フルフルと小刻みに震えながら、涙目になるとか···まるで小動物の様で。
可愛い···いえ、そんなことを考えている場合じゃありませんね。
「とにかく降りて来て下さい」
環「降りて来いっつっても、ひとりで降りれんのか?」
『あはは···どうだろう』
「あはは、じゃありませんよ。ひとりで降りれないのに、なぜ登ったんですか」
三「一織はもういいから。ほら愛聖、まずはその握り締めた蛍光灯をオレに渡せ?」
兄さんが買い物袋を置いて手を伸ばすと、佐伯さんは怖々と蛍光灯を手渡した。
環「じゃ、ハイ。オレに捕まれよ、マリー」
四葉さんが両手を伸ばすも、小さく首を振って更に脚立にしがみつく。
『こ、怖いから手を離すのムリ!』
三「そんなこと言ったって、手を離さなきゃ降りれないだろ?な、ほら環に捕まれよ?」