第2章 私を乱さないで下さい··· ( 和泉 一織 )
「戻りました」
環「ただいまぁ。って、なにやってんのマリー?」
四葉さんと一緒に学校から帰り、寮の玄関を入ると目に飛び込んで来る光景に驚く。
『お帰りなさい四葉さん、一織さん。あのね···ここの蛍光灯が切れかかっててチカチカするから取り替えようかな?って···思ったんだけどね···』
高い脚立のテッペンに跨りながら、片手に蛍光灯を握り、もう片方の手はしっかりと脚立に捕まって動けなくなっている佐伯さんは、少し恥ずかしそうに私達を見る。
『これくらいなら私にも出来る!って思ってたんだけど、いざテッペンまで来てうっかり下を見ちゃったら···怖くなってこの有様です』
「何も佐伯さんが交換しなくても良かったでしょうに。寮にいる誰かに頼むとか考えなかったんですか?」
あいにく私や四葉さんは学校がある。
でも他のメンバーだったら、レッスンまでの時間はそれぞれ個々に過ごしているというのに。
『二階堂さんはナギさんのお部屋でアニメ鑑賞してて、七瀬さんと逢坂さんはレッスン場のお掃除してるし···』
「兄さんはどこに?」
いくら兄さんが小柄だと言っても、蛍光灯の交換くらい、なんて事ないのに。
『三月さんは夕飯のお買い物に出掛けてます』
···そう言えば今朝、兄さんがそんな事を言ってましたね。
『それに、アイドル活動をしてる皆さんにお願いして、もし脚立が倒れてケガでもしたらと思ったらお願いするのを踏みとどまっちゃいました』
「は?それは佐伯さんも同じ条件でしょう。そこまで考えるなら、大神さんにお願いする事も出来たでしょう?!あなたバカなんですか?」
『···そんなに怒らなくても』
「怒るに決まってるでしょう!私達がアイドル活動をしてるのと同じ様に、あなたも小鳥遊プロダクションに所属する女優ですよ?尚更、顔にケガでもしたらどうするんですか!」
私達も佐伯さんも、小鳥遊プロダクションの商品なんですよ?!
カスリ傷ひとつでその価値がガラリと変わってしまう世界にいるんです。
そもそも彼女は私達よりずっと長くこの業界にいるって言うのに、そんな事も頭にはないんですか。
三「ただいまぁ!って、何してんだ三人揃って」
「兄さん···お帰りなさい。実は佐伯さんが無謀な事をするので叱責を」