第1章 秘密のキスはアナタと ( 大神万理 ・2018生誕 )
『えっと···は、ハグ···とか?』
「じゃあ、やってみて?」
答えはハズレだけど、せっかくだから頑張って貰おうかと笑顔だけ見せる。
抱っこしてる状態でもかなりの密着度ではあるけど、それでも愛聖はそっと体を寄せて来た。
「ブー···残念でした」
『あっ!ズルい万理、そういうの!』
パッと離れようとする愛聖の体を捕まえて、ハズレたんだから体制はこのままです!と抱き寄せる。
『ズルい···せめてヒント頂戴?それ位はいいでしょ?』
「ヒントかぁ···分かった。じゃあヒントは、俺はこのまま目を閉じてスタンバイします」
『えっ?』
腕の中でたじろぐ愛聖をそのままに、宣言通り目を閉じてみる。
「いつでもいいよ~?心の準備は出来てるから」
煽るように言って、その時が来るのを待った。
少しの時間が、目を閉じているだけで長く感じる。
そんな時間も、フワリと頬に触れる柔らかさで···あっけない程に終わってしまった。
『こ、これが正解?』
力なく胸に凭れる愛聖に、これもハズレだと言えば···
『これ以上は恥ずかしすぎてムリ!···恥ずかしくて死んじゃう!』
キュッと浴衣の合わせを掴んで顔を隠された。
「え~、残念···せっかく俺の誕生日なのになぁ···」
『じゃあ、降参するから···正解教えて』
おっと···これは予想不可能な方向からの、小さな攻撃が来たな。
「愛聖。顔···上げて?」
緊張した面持ちの愛聖に、思わず小さな笑いが出てしまう。
「俺のこと見過ぎだって。せめて目くらい···閉じててよ」
『こう···?』
「そう。そのままね」
それだけ言って、指先で1度···そっと愛聖の唇をなぞって。
それから···ゆっくり何度も、いつまでも···唇を合わせた。
誰もいない場所で···愛聖とだけの秘密の時間。
そんな俺達を見てるのは。
星の瞬く空を見守る、優しい月だけだった。