第1章 秘密のキスはアナタと ( 大神万理 ・2018生誕 )
❁❁❁ 愛聖 ❁❁❁
「愛聖、そろそろ部屋に戻ろうか?」
立ち止まっていた私に、万理が声を掛ける。
『そうだね···風邪ひいたりしたら、いろいろ大変だし。私も、万理もね』
ひょこっと肩を竦めて見せて、万理に追いつこうと足を踏み出せば。
『わっ···とと···』
旅館のサンダルが石畳にひっかかり、躓いてしまう。
万「危ないなぁ、ホント。ほら···行くよ」
そっと差し出される万理の手に、なんとなく惚けていると万理が私の手を引いて···笑った。
万「ほら、危ないから···ちゃんとしっかり繋ぎなさいよ?」
『···うん』
じゃ、行きますか···と歩き出す万理の歩幅は、ちゃんと私と同じなってて。
さっきよりもゆっくりと景色が流れて行く。
さっきまでは、イタズラに繋いでみようと思っていたのに。
いざ繋がれてしまうと、触れ合う部分が熱く感じて···
『万理。転ばないように気をつけるから、手···大丈夫だよ』
万「ダ~メ」
『誰かに見られちゃうかも知れないよ?』
万「見られてもいいんじゃない?···千なんて平気で繋ぐだろ?」
『そうだけど···万理は千と違う、し』
千は···万理とは違う理由で私の手を引くから。
万「それに見られたって平気。いまの愛聖はノーメイクだし、それに···」
『それに?』
万「実はここへ来た時に愛聖の名前をそのまま書けないと思って、宿帳に···違う名前、書いたし」
そう言えば受付で記帳をお願いされた時、なんか万理···私をチラチラ見ながら書いてたんだよね。
それで私も書こうとしたら、ついでだから書いといたって言われて。
『私の名前、なんて書いたの?』
万「さぁ···なんだっけかなぁ」
意味あり気に小さく笑う万理に、教えてくれないの?と聞けば···耳元でこっそり教えてくれた。
万「···大神 愛聖 って、書いたんだよ」
『なっ、なんで?!』
万「だってさすがに書けないだろ?佐伯 愛聖なんて。それに子供の頃の愛聖が、いつか女優になったら俺の苗字使ってもいいか?って言ってたの、思い出したから」
『それにしても!』
旅館に泊まるのに同じ苗字とか···それって···