第1章 秘密のキスはアナタと ( 大神万理 ・2018生誕 )
社長からプレゼントされた突発的な休暇と温泉旅行。
それは有難いとは思うんだけど···どうしても、仕事の事を考えちゃったりして。
「そう言えば今日は、アイドリッシュセブンのフライヤーが納品される日だったな」
なんて、思わず口に出してしまう。
『また仕事のこと考えてる』
「だって仕方ないだろ?こんな急に休暇だって言われても、心の準備っていうか···でも、のんびり出来るのは滅多にないからいいんだけど、なんか落ち着かなくて」
社長がどうして愛聖を俺に同行させたのか、愛聖の言葉で分かる気がする。
俺1人だったらノートパソコン持ち歩いてでも、絶対仕事しちゃうからね。
『せっかく社長からのプレゼントなのに、いいの?それに、すぐ側には、こ···こ~んなカワイイ女の子がいるのに···なんて···』
ちょっと冗談混じりに言う愛聖に、つい構いたくなる衝動に駆られて周りを見回してみる。
「え?カワイイ女の子?どこどこ?」
そんな俺に、愛聖は酷い!と笑う。
『私が子供の頃はさ、買い物行くのにも迷子になるとか、危ないからとか言って手を繋いでたりしてたのはどこの誰でしたっけ?』
「···千じゃない?」
なんて。
ホントはちゃんと、覚えてるんだけどね。
愛聖も大人になっちゃって、簡単に手を繋ぐなんて出来なくなったけど。
たまに千が、なんの躊躇いなく愛聖の手を引いていくのを見ると、ちょっと羨ましいな···とか思うし。
そういう所、千は得してると思うよ。
ふと気が付けば、隣を歩いていた愛聖が足を止め···自分の手をジッと見つめている姿を見る。
思い出してるんだろうなぁ、子供の頃の事とか。
一緒に買い物して、夕方には愛聖の母さんに引き渡して。
俺の手から、愛聖の母さんの手に···
その愛聖の母さんも、今は···もういない。
それは分かってるけど···今更、手を繋ぐとか、恥ずかしいだろ。
そう思うと、大人になるのって···何だかちょっと寂しくも思える。
でも、大人になってなかったら···こうやって愛聖と同じ時間を共有する事も出来なかったんだと思うと、俺は複雑だよ。