第11章 A little more to love (大神万理 )
『それは別に大丈夫だけど、でも、ライティングも小道具もないけど?』
「具体的にはこうとは言えないんだけど・・・えっと、ほら!先に雰囲気だけでも経験すれば何とかなりそうかな?だとか」
そんなのは多分、気休めにもならないかも知れないけど。
そんな俺の考えを読んだのか、愛聖は雰囲気だけならとっくに経験してるのに?と笑い出す。
『覚えてない?私がまだ子供の頃に、母さんの帰りが遅くて万理の部屋で千と留守番しながら遊んでた頃に、テレビで芸能人の挙式風景が流れてて。それで私もあんな綺麗なお嫁さんになりたいって言ったら千が、じゃあ僕と結婚式ごっこしてみる?って』
懐かしそうに目を細めながら言う愛聖に俺もそれを思い出して、そんな事もあったねと、同じように目を細める。
あの時は即席過ぎて、ベールは俺んちにあった白い大きなバスタオルを愛聖の頭に被せて。
リングだって千が五線譜が書かれた紙で折った花をリボンにくっ付けただけのやつだった。
『ごっこ遊びだったけど、あの時は私、本当に結婚式したらこんな感じで楽しくて、たくさん笑いあって・・・子供過ぎて愛がどんなものか分からなかったから、ずっと大好きって気持ちを、神様に言うんだなって思ってた』
大人になった今でも、愛がどんなものかはまだ分からないけどね?とまた笑って、愛聖は空を見上げてゆっくりと瞬きをする。
そんな愛聖がとても愛おしく見えて。
今日一番に、綺麗だと思えて。
ベールを留めているフラワーアレンジメントに手を伸ばし、小さな花をひとつ引き抜いた。
『・・・万理?』
何をしようとしているのか分からない愛聖が不思議そうな顔で俺を見るのを他所に、そっと左手を取って薬指に花を巻いて、留める。
「リングはなくても、今はこれに・・・誓うよ」
花を巻いた愛聖の左手を引き寄せ、柄にもなく口付けた。
『なんか、千みたい』
「言うなって。俺もいま、ちょっとだけそう思ったんだから。柄にもない、って」
『でも、こんな小さな事が楽しくて嬉しいって思うのは、その相手が・・・万理だからかも知れない』
「どうして・・・俺?」
『それは・・・内緒』