第11章 A little more to love (大神万理 )
いざ撮影が始まってしまうと、いくつかの困難はあったけれど比較的スムーズに事は進んでいく。
ただ気になるのは。
ずっとその様子を見ている千が、時々・・・壁に向かって肩を震わせている事だけど。
更に百くんまで、チラチラと俺を見ては満面な笑みを浮かべながら社長と何かを話している。
「さて、ここまでは思ったより順調に進んでるが・・・次のシーンは重要になってくるんだけど、出来るかね?」
「次のシーンは確か、庭を2人で歩くだけですよね?それなら大丈夫だと思います・・・多分」
最初に打ち合わせした時の説明だと、ライトアップされた庭園を2人で歩いて、時折顔を合わせて微笑み合う・・・そういった流れだったから。
「それなんだけどね、大神くん。少し変更したいんだよ」
「変更ですか?どんな風に?」
「ここの部分だけど、千くんと百くんの時にもあったでしょ、キスシーン。それを大神くんの時にも入れた方がいいんじゃないか?って千くんから提案されて、それもいいねって話でいま纏まったんだ」
「キスシーン?!そんなの俺にはハードル高過ぎです!」
「そこを何とか頑張って貰えないかな?ほら、ウエディングパレスのCMだし、なんならいくつかパターンを撮影して、それをそのまんまポスターに回すことも」
「そう言われても・・・」
困った・・・っていうか千!!
なんてとんでもない事を提案してくれちゃってるんだよ!
いくらなんでも愛聖をパートナーにそんなこと出来るはずないだろ?!
いや、違う。
例え愛聖じゃなくたって、出来ないだろ普通。
俺はアイドルでも俳優でもなく、ただの有能事務員で・・・
そりゃ確かに千とインディーズでユニット組んでた時は、ファンサで投げキスくらいはした事あるけど。
そもそもそれとこれとは全然違うだろ?!
「大神くん位のイケメンなら、キスのひとつやふたつ位の経験はあるだろ?」
「それは、まぁ・・・あります、けど・・・」
『そんなにたくさん経験あるんだ?』
「俺だってそれなり・・・うわぁっ?!愛聖?!」
監督の背後からひょっこり顔を出した愛聖に動揺して、上擦った声で叫ぶ。
千「万だって男だからね。キスどころか、その先も、更にその先だって経験豊富かもよ?」
「なに言ってんだよ千!お前じゃあるまいし!」