第11章 A little more to love (大神万理 )
だけど、ひとつ返事で受ける訳にもいかない。
俺はごく普通の一般人で、芸能人プロダクションの単なる事務員だ。
あの日、音晴さんに拾われて。
そして音晴さんの元でって、決めたんだ。
だから・・・表舞台になんの未練もない。
それにバックアップする方が楽しくて、ね。
「監督、本来はそう言ったお声掛けは喜ばしい事ではあると思います。ですが今回は大変申し訳ありませんが、っ?!」
お断りさせていただきます・・・そう、言おうとしたところで背後から口を塞がれる。
千「どう監督?素材には問題ないでしょ?」
千?!
「君たちにはいい人材を紹介して貰ったよ。だがしかし、彼はあまり気乗りではないようでね」
千「そうなの、万?」
怪しい微笑みを浮かべていつまでも俺の口元を押さえる千を軽く振り払って、新鮮な空気を肺に取り込む。
「当たり前だろ、俺はそういう表舞台に顔を出すのはもう辞めたんだ。それに、もし引き受けなきゃならないとしても俺だけの判断じゃ無理だ。そもそも有り得ないんだって」
千「それって、うさぎのおじさんに許可を得ればいい?」
「だから!社長をうさぎのおじさんって呼ぶなって。社長だってそう簡単にオッケー出すわけないだろ」
それに、こんな仕事をするにはイメージだってあるだろ。
今は前髪を長く下ろして隠してはいるけど、大きな傷跡だってある。
百「バンさん、もし・・・だけど。小鳥遊社長がバンさんを使ってもいいよって言ったら受けてくれるの?」
「だからさっきも言ったように、」
『えっとね、万理・・・社長が喜んでGOサイン出してるけど・・・』
ほら見て?と愛聖が自分のスマホを俺に向けると、それはテレビ電話に繋がっていて。
小 ー 万理くんお疲れ様。話は愛聖さんから聞いたよ~!折角だからチャレンジしてみたらどうだい? ー
「でも俺はタレントでもないですし、ただの事務員ですよ?!」
小 ー その辺は大丈夫。あ、ちょっと通話だけにして監督と代わって貰える? ー
言われるままにテレビ電話から普通の通話に切り替えて監督に渡すと、俺たちから少し離れて何やら相談をしている。
その表情は明るく、時折笑い声まで響かせているってことは・・・俺はもう、腹を括るしかないって感じなのか・・・?