第11章 A little more to love (大神万理 )
千は何気に水に濡れるの好きじゃないから、百くんに押し付けたな?
これはリテイクがあっても仕方ない・・・頑張れ、百くん。
なんて、思ったのも束の間。
百くんとの撮影も特にNGなく撮り終えてしまう。
何気なく時計を見れば、予定よりも随分と早くスケジュールが進んだのかまだ夕方にもならない時刻を表している。
早く終わるなら事務所に戻ってから入力作業をして、それからMEZZO"のスケジュール管理と・・・
「君が大神くんかね」
「え?あ、はい。大神は、自分ですが・・・」
事務所に戻ってからの自分の予定を組み立てていると、不意に監督に声を掛けられ思考を止める。
「うん・・・うん!なるほど、彼らが薦めるように実にいい素材じゃないか!」
「あの、彼らって・・・?」
妙に機嫌よく俺の肩をバシバシと叩く監督に言葉を返せば、更に監督は機嫌よく豪快に笑い出す。
「彼らってのは、もちろんRe:valeの2人だよ!」
やっぱり千と百くんか。
「それで、Re:valeの2人がどうして俺を?」
何となく嫌な予感がするけど、愛聖が関わってる撮影の監督だということもあって邪険には出来ない。
「今日2種類のバージョンを撮影したんだがね、クライアントと今朝話をしていたら、営業開始と同時にナイトウエディングってのも受付するらしくてね」
「はぁ・・・ナイトウエディング、ですか」
「そうそう!それで急遽Re:valeの2人にどっちかでもう1本撮らないか?って話を振ったら、どうせなら新郎役が3人別人の方が映えるんじゃないか?って千くんに君を薦められたんだよ」
「はぁっ?!俺を?!あ・・・すみません、ちょっと驚いてしまって」
予想以上の監督の驚き発言に声を上げてしまって、思わず冷や汗を流す。
「で、どうかね?」
「いや、どうかね?って言われても。俺はただの小鳥遊プロダクションの事務員ですよ?!そ、そう!いわゆる一般人です。こんな大事な撮影なのに出来ませんよ・・・」
これが例えば街中のスカウトなら、今までと同じにハッキリ断ってしまうだろう。
けど、今はそうじゃない。
撮影現場の監督相手に、そんな事は出来ない。
愛聖がこれから先、もしこの監督と仕事をする事がなくなったらと思うとピシャリと断りの言葉を発する事も出来ない。