第10章 甘さはなくても・・・(2020.2.14 八乙女楽 )
「俺の好きなように食えって言ったのは、お前だぞ、愛聖」
『だからって、なんでこうなるの?!ちょ・・・離して・・・』
「離さない。ほら、なんならもうひとつ食うか?」
『食べたらまた、その・・・するかも知れないから』
「ん?食わなくてもするけど、キス」
『なんで?!』
ちょっと油断した隙に掴んでいた手を振りほどかれ、間にぬいぐるみを置かれる。
「するだろ普通、新婚だったら」
『それはドラマの設定でしょ!』
「でも、するだろ?」
何を言っても軽く返される事に戸惑いを見せながらも、一向に距離を保とうとする愛聖が可笑しくて。
「おやすみのキスくらい、するだろ」
『そっち?!』
「そっちって?」
分かっているのにそれでもとぼけて見せれば、みるみるうちに顔を赤くして・・・
『もう寝る!ほんとにおやすみ!』
ぬいぐるみを放置したまま、愛聖はベッドに潜り込む。
ホント・・・からかいがいのあるヤツ。
『楽・・・部屋の電気消してね』
「電気消してだとか、お前ヤラシイな・・・痛っ」
冗談だってのに、枕投げることないだろうが。
飛ばされた枕を拾いながら、リモコンで灯りを落として自分もベッドに入る。
マカロンの箱は・・・まぁ、サイドテーブルに置いときゃ大丈夫だろ。
『真ん中が境界線だからね』
「はいはい」
イジメ過ぎたのか警戒心ビリビリで素っ気なく言われるも、敢えて気にせずに聞き流す。
それにしても、この企画ってホントに意味があんのか?
バラエティーチームの撮影は明日からだって聞いてるけど、そっちはそっちで気を抜いたら変なとこ撮られそうだし。
一応、用心しとくか。
撮影の合間にTRIGGERの仕事。
打ち合わせに、雑誌の取材に・・・忙しいな。
これから先のスケジュールを考えていると、いつの間にか寝付いたのか、愛聖の寝息が届く。
・・・つうか、こんな状態でよくスヤスヤ寝れるもんだ。
まさか・・・寮でもこんな事がよくあるとか?
いや・・・まさかな。
けど、そういやこいつ、千さんの家に泊まったりしてたよな?
確か百さんと3人で寝てるとか聞いたことがあるけど。
あの2人、どんな強靭な精神してるんだよ。
枕に肘をついて寝顔を覗けば、本格的に規則正しく呼吸が繰り返されている。