第10章 甘さはなくても・・・(2020.2.14 八乙女楽 )
俺の為に楽しく選んだって物を、愛聖が他のヤツと揃いで・・・ふざけんな!
「待て。それ寄越せ」
『なんで?』
「いいから寄越せ」
『寄越せって、だって楽はイヤなんじゃないの?あ、ちょっと?!』
大事そうに抱え込むそれを奪うように取りながら、渋々ソファーから腰を上げる。
「ったく、ちょっと待ってろ・・・着替えて来る」
『え?・・・えぇっ?!』
「今回だけだからな」
不機嫌を装いながらも、愛聖に背中を向けた途端に口端が緩みそうになるのを堪える。
ただ、ちょっと着てやるだけだ。
べつにほかの男とペアになるのがどうだとか、そんなのは関係ない。
着ているものを脱ぎ捨て、代わりにふわモコに袖を通す。
クソッ・・・罰ゲームかよ。
全てを終えて姿見で自分を見れば、これは本当に八乙女楽なのか?という疑念にかられる。
こんな姿・・・龍や天に見られたら何を言われるか。
特に、天な。
容易に想像がつく天の顔や物言いに若干ウンザリしながら、愛聖が待つリビングへと戻る。
『楽・・・か、カワイイよ・・・似合う似合う!』
「なんで笑い堪えながら言ってんだよ!笑うなら今すぐ脱ぐぞ!」
『脱いじゃダメ!あと、ちゃんとうさ耳フードもちゃんと被らなきゃ!』
「着るだけ着たんだからいいだろうが」
『えぇ・・・じゃあ、ちょっとだけ!一緒に写メ撮ろうよ?お揃いのパジャマ着てる写真!監督さんも言ってたし。新婚ラブラブっぼい写真撮れたらデータ送ってね?って』
新婚・・・ラブラブ?!
俺はそんなの聞いてねぇよ!
愛聖に言っとけば上手く行くと思ってんな?
あのタヌキ監督め・・・どんだけだよ!
『ねぇねぇ、ダメ?ほら、うさ耳フード可愛いよ?』
さっきと同じように耳の両端をつまんでぴょこぴょこと動かしながら愛聖が俺を見上げる。
・・・あぁ、クソ・・・そういうの反則だろうが!!
「こ・・・っ」
『こ?』
「今回だけだからな・・・」
おもむろにフードを引っ掴み被ってやれば、満足そうに笑みを浮かべて抱き着いてきた。
「・・・なんだよ」
『楽・・・可愛すぎる!』
「俺が可愛くてどうすんだよ。寧ろお前の・・・っと、いや・・・なんでもねぇ」
危ねぇ・・・口が滑るとこだった。