第10章 甘さはなくても・・・(2020.2.14 八乙女楽 )
まずは撮影より1週間程早く生活をスタートさせろと言われ、指示された場所へと荷物を転がしながら訪れる。
2人だけの新婚擬似生活を楽しめって、あの監督なに考えてんだか。
「間違いなく、ここだな」
制作側が用意したマンション一室のドアに手を掛ければ、既に愛聖が来ているのかなんの抵抗もなくノブが回る。
ったく・・・なんでオレがこんな目に。
心の奥で毒付きながら入れば、玄関にはきちんと揃えられたパンプスがあり、その隣に俺も靴を並べて部屋へと進む。
『あ、楽おかえり』
「あぁ、ただいま・・・じゃねぇよ!なんだこの部屋は!」
目に飛び込んでくる部屋の内装は、こんな部屋じゃ落ち着かねぇだろ!と言いたくなるような、ピンク色で揃えられていた。
『どんな部屋なのかと思ったら、結構可愛いよね~!ほら見て?カーテンとかハート柄!』
・・・マジか。
ヒラヒラとカーテンの生地を踊らせる愛聖を見れば、それは確かに・・・ピンク地に赤や黄色のハート柄が飛んでいた。
『打ち合わせの後に楽は他の仕事があってすぐ帰っちゃったら、部屋の内装はどうしたい?って聞かれて、せっかく新婚さんだから可愛いのがいいなぁ・・・ってリクエストしたら、こんなに可愛くしてくれてたの』
「だからってお前、こんなファンシーな部屋で俺に過ごせっつーのかよ!」
『ごめん・・・ダメだった?』
思わず声を上げた俺にシュンとした顔を見せる愛聖に罪悪感を覚えながらも・・・コイツはそういうヤツだったなとため息を漏らした。
「今更どうにもならないだろ。設定とか、なんかそういうの色々あるだろうし・・・とりあえず着替えるてくるから」
大げさなくらいのため息を残して、もうひとつの部屋のドアへと手をかける。
いや・・・まさか、な?
さすがにベッドルームまでピンクだのハートだので溢れてないよな?
いやいやいや、待て。
そもそもなんで俺はベッドルームを共用だと思ってんだ?
さすがにそれは・・・撮影があるって言っても、無謀だろ。
ガチャリ・・・と控えめな音をさせながらドアを推し開けば、その部屋はグレーや黒で統一された自分好みな部屋になっていてホッとする。
・・・のも束の間。
・・・・・・・・・ちょっと待て。
この部屋は確か、1LDK・・・だったよな?