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香り娘と薬売り

第3章 二口女 ≪前編まで公開≫



麿雪たちの期待の眼差しが薬売りに降り注ぐ。しかし当の本人はそこまで乗り気ではないのか、全くと言っていいほど表情も変えずにいる。


「千咲さん、今の貴女の考えを 聞かせてくれないか」
「なぜわたくしでしょうか?」

千咲は内心出番がなくなってしまうのかと少し落ち込んでいたが、薬売りの言葉に驚いた。しかし冷静に考えてみれば、薬売りが話すのを面倒がってるようにも感じてしまい、複雑な表情を浮かべる。




「まあ、承りましょう。わたくしは薬売り、貴方の力が気になりますし」

そして千咲は薬売りに使いを頼まれ買い物へ行った薬屋で聞いた話をすることにした。

「ある店主様に聞いた話でございます。おそらく麿雪様もお気になさっていることでございましょう。
旅人が突然仲間を殺害してしまう、それも奇妙なことに殺した者は女の声が聞こえていたとか。恐らく女の声の幻聴に惑わされ、気をおかしくしてしまい殺してしまったのではないんでしょうか。

昨日も夫婦でこの町を訪れた者が被害に遭われたとお聞きいたしました。奥方様が旦那様を殺してしまったという」

「いかんことだが、こんな小さな町では噂は早い。まあ、話が早いことに越したことはないのだろう、いかんことなんだが…千咲殿の仰るその通りなのだ。そしてその男子を殺したかもしれない女子は、私がこの屋敷で保護している。……出歩かれて他の者にまで被害が及んでは困るからな」


「もし、麿雪様がよろしければ、その奥方様にお話聞かせていただきとうございます。
ご心配には及びませぬ。わたくしの呪い(マジナイ)で奥方様の中に潜むモノノ怪を現して見せましょう」



麿雪の喉を鳴らす音が響き渡った。この少女とも見間違えるやかもしれない女に何ができるというのか。

もしかすれば、この女に乗り移ってしまうかもしれない。

屋敷の中で暴れられてはただじゃ済まない。



一つ考えて、麿雪は大きな口をすぼめるようにして息を噴出した。



「むぅ・・・いかんことだが、もう私には其方らしかおらぬ。

千咲殿、それに薬売り殿よ頼みますぞ」

この愛するちっぽけな町に悪い噂を流したくない。
麿雪は驚いた表情を見せこちらを伺う用人を見ることもなく、重い腰を上げた。


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