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香り娘と薬売り

第3章 二口女 ≪前編まで公開≫




顎に手を当てて考える麿白。考えたからといって、ここらで商人が喜ぶようなものは思い当たることはなかったようだった。そもそもここらを訪ねる旅人は、ここよりもさらに何もないような村から訪れるものが多い。あるいは別の町から逃げてきたもの、そして何者かを追うもの。

「薬売りよ、其方の相方を連れてきたのだ。いい加減にここを訪れた理由を教えてはくれぬか、いかんことなのだ。最近は旅人が危険な目にあうことが多くていかん・・・それを私はなんとか防ぎたいのだ」

真剣な眼差しで薬売りを見る麿雪。彼の座る位置から薬売りは離れたところに座している。そして薬売りは、こてんと首を傾げて麿雪に答えた。

「理由 ねぇ」

薬売りは音もなく自身の薬箱から鬼のような装飾をした短い剣を取り出した。それを見た千咲はゴクリと唾を飲み込む。千咲の予感は的中なのか、あの剣はモノノ怪しか切ることができないと聞いていたため、やはりこの町で起きている事件にはモノノ怪が関係しているのだろう。

この空間にいる者は薬売りの行動に緊張する。なぜ薬売りが短くとも剣など物騒な物を持って歩いているのか。

しっかりと薬売りの手に退魔の剣が治った時、雇われの身の男が声を上げた。


「貴様!麿雪様に剣を向ける気か、許さぬぞ!!」
「ひぃっ」


思わず千咲は今にも抜刀しそうな男に情けない悲鳴が出てしまった。妖なんかには慣れたものだが、自分に目掛けて刀を向けられるようなことは滅多にない。そして男の勢いもぴりぴりと刺激のあるような気を発している。

「まあ まあ。そんな 物騒な物は 納めていただきたい。なんせ 今回は そんな立派な刀じゃあ 歯が立たない ですからね」

挑発的な言い草に、歯を噛みしめている用人。彼は自身の主人へと目線を送れば、麿雪は刀から手を離せと言わんばかりに眉間にしわを寄せて見返した。


「薬売り、話を聞かせてくれぬか。其方は何が知っているのだろう。実にいかんことだが、私には手の打ちようがない」
「麿雪様っ!」
「よいのだ、もうこれ以上この町で無意味な死者など出したくない。
薬売りを見たときに、何かを感じたのだ。彼なら解決できるのではないかと」
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