第9章 決意
事情をある程度知る塚内は、気持ちを汲み取り了承したのだが、果たして彼女は大丈夫だろうかと。
家族ですから、という言葉を飲み込んだのは分かっていた。それをクラスメイトたちに悟られまいとしていたからという事も。
流衣は基本、精神的にブレが来ない、強い人間だと思われており、また、この状況に陥った事に責任を感じているのだと思われた。
親しいマイクだけは彼女の様子に納得もし、そして周囲以上に心配をしていたのだが、それを知る者は1人もいない。
「馬鹿っ……無茶、するなって………前から、言ってる……のに………………っ」
相澤の手を握り、流衣は俯く。
彼女と彼の同居を知らない救急隊員たちは、何が「前から」なのだろうと思うが、流石に口は挟まない。
そして、皆、目を彼女たちから逸らしていた。
だから、気が付かなかった。
相澤の出血部分だけ、色を失っているということに。
彼女が彼に駆け寄った瞬間、血が止まったということに。
壊れかけた肘と、ボロボロのコスチューム。
血がべっとりと付いたその頭に、顔に、透明な雫がぼろぼろと零れた。
その赤は、しかし流れることなく。
肌に付着したまま、相澤から離れようとはしなかった。
そして、それと同じように、──この光景は、一生、流衣の頭にこびりつく事になる。
それが、敵────中でも、今回の事件の黒幕にとって大きな誤算だったというのは、まだ誰も、知ることはできなかった。