第32章 閉幕
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「ターゲットは死穢八斎會、拠点を押さえます」
「クロノス、頼んだ」
隣から、慣れ親しんだ声が聞こえてくる。
低く甘く、少女の耳を心地よく刺激した。
よし、それじゃあ。
「──────突入!」
もう、自分には居場所がある。
友人もいる。
もう、仲間には怖がられないのだ。
やっと、認めてもらえたのだ。
敵には、怖がられてなんぼ。
それならば、個性を使うまでのこと。
周囲に、モノクロの風景が広がった。
それは、とある1軒の豪邸のみ。
飛び出してきたペストマスクの大男も、その瞬間に宙に浮いて止まる。
「行くぞ、クロノス!」
「はい!」
大好きな大好きな、男と共に。
少女は戦場へと駆け出した。
背後には頼もしい、友人もいる。
少女の個性を知っても尚、親しくあろうとしてくれている、大切な存在だ。
「無個性」だからなんていう嘘も言い訳も、もう必要なくなった。
勿論、事情はクラス内での共有された秘密、つまり他クラスなどには話すことなどできないけれども。
「"無個性"だけどヒーロー科」。
だけどその少女は、ものすごく優秀で。
なぜかプロヒーローである教師たちとも仲がいい。
噂が噂を呼び、卒業する頃にはいくつもの事務所からスカウトされ、また、1年目にして早くも多くのスポンサーをつけることになるほどの有名ヒーローになる。
また、スカウトを全て断り、担任だった教師の事務所に行くことになり、その頃には苗字も変わっているのだが────────────
それはまだまだ、先の話。
だけどもきっと、幸せな話。