第9章 決意
「流衣、落ち着きなさい」
普段流衣が毛嫌いしている、その声が諌めた。
しかし、それすらも耳に届かないのか、
「やだ、やだよ………しなないで」
と、うわ言のように繰り返すだけ。
生徒たちは、そんな様子の流衣に驚きを隠しきれない。
普段無気力なのかと思えばミッドナイトには噛み付いてばかりだし、相澤の容態には酷く取り乱す。
死なないでと、そればかりを繰り返す。
敵たちには、目もくれずに。
敵よりも、相澤の生死の方が重要なのだと言わんばかりだ。
スナイプや他の教師たちは、流衣の様子を気にしつつも敵たちの元に向かったり、攻撃し制圧したり。
しかし一向に改善を見せない流衣の態度に、マイクはやれやれと首を振った。
そして、
「Foooooooooo!!!!」
彼の個性であるヴォイスを発動した。
ビクリ
漸く、流衣の瞳に理性が戻った。
虚ろな目には次第に光が戻っていき、視線を泳がせてから、再び相澤に固定される。
「しょ………っ、相澤先生…」
相変わらず手も声も震えたままだが、呼び方が変わった。
勿論、声は小さいために教師たちにしかその変化は判らなかったのだが、それでもクラスメイトたちにも「普通に」戻った、と伝わったようだった。
「っそうだ、救急車っ」
バッと振り向き、携帯を借りようとすると、根津がもう通報ならしたよ、救急車も呼んであるよと安心させるように言った。
そこで漸く流衣に幾ばくかの安心を与えられたようで、ぽろぽろと涙が零れた。
いや、今になってようやく、「大切な者を亡くす怖さ」に思い至ったのかもしれない。
「…おねがい、しなないで…………」
あまりの余裕のなさに、さすがに蛙吹たちは違和感を覚えたものの、誰も何も言わなかった。
マイクが優しく撫でる流衣を、生徒たちは見ていることしかできなかった。