第8章 昔の話
──「オールマイト…」
仮眠室に1人残されたオールマイトは、過去の瞳を思い出す。
暗くどんよりとしていて、年端のいかぬ少女が浮かべる色ではなかった。
明らかに異常であったが、それが彼女や親代わりである相澤の所為ではなくて、世間──社会の所為なのだと、その時点で既に知っていた。
あの時はまだ自分は呼び捨てで呼ばれていて。
そこから滲み出る幼さは、やはり瞳と不釣り合い。
子供らしさの欠片もない、悲しい、少女だった。
昔の、話。
──「オールマイトって強いの?しょーたの方が、つよいでしょ?」
──「かっこいいよね、しょーた!」
しかし、あの頃から、彼女は相澤を大好きだった。
彼のことを話すときだけ、瞳はキラキラと輝いていて。
彼について話すときは、どこか自慢げで。
とても、楽しそうだった。
当時は世界が狭く、知り合い自体少なかったのも原因であろうが────それでも彼女は、一心に彼を慕っていた。
あの頃から、彼女は随分と変わってしまった。
瞳に宿る暗さ、悲しさ、過去──その全てを、微笑みひとつで誤魔化してしまう。
成長したと言えば、聞こえはいいけれど。
決してそれだけでないことを、オールマイトは知っていた。
ここ数年では、マイクにも懐き始めたようではある。
緑谷と2人で下校したのもこの目で見た。
少しずつ、少しずつ。
彼女の世界は広がってきている。
それは確かだ。
でも、それでも。
彼女は相澤以外の誰にも心を開いていないように見えて仕方ない。
相澤も心配はしているだろう。
彼のことだから、既に手を打っているのかもしれない。