第5章 意識の違い
「緑谷はオールマイトさんに憧れてるんだって」
「…まあ、ヒーロー志望ならあの人に憧れてる奴も多いだろ」
「でね、私は志望って訳じゃないけど……"無理やり"、みたいなもんじゃん?」
「雄英に入ったのはお前の意志じゃないのか」
雄英の入試を受けていたこと自体、流衣がマイクと相談して決めていた事であって、後見人であるはずの相澤は全く知らされていなかった。
「違うよ、ヒーローの方」
「…ああ」
そっちか、と相澤は呟く。
"ヒーローの方"は確かに──不可抗力、無理やりみたいなものだった。
彼女の意志は反映されていない。
捨てれば、もしくは離れればいい話なのだが、それはしたくないらしかった。我儘な子供だ。
「…さっきの質問に答えよう。
座学の授業中ずっと寝ていて、且つ実技でもサボるか見学かで、まともに参加したかと思えば呼吸ひとつ乱していないんだ、本気に見える方がどうかしてる」
きつい言葉とは裏腹に、相澤の表情は優しいものだった。
頭を撫でると、ふわり、と自分と同じ匂いがした。
その匂いに、そうか自分はただの保護者なのだと、思い知らされる。
「そうかあ…見つかるといいな、私にも。目標とか、憧れとかが」
眠そうに呟く流衣。
──ヒーローなんて危ない職業には就いてほしくないってのが本音なんだけどな。
心中での相澤の呟きを、流衣が知るよしもなかった。