第30章 「時計」
しかし、相澤は答えない。
答えてもいいのか、迷っているように見えた。
「…言えねえのか」
教室の1番後ろから、そんな声がした。
振り向かずとも誰の声かわかるが、しかし皆が驚く。
まさか轟が、声を上げるなんて思ってもみなかったからである。
複雑な環境で育った彼には、事情は違えど流衣の気持ちもある程度はわかるのだろうか。
いつになく真剣な表情を浮かべていた。
「…どう思った」
相澤の目が不安げに揺れているのは、何か特別な理由があるのだろうか。
流衣の事になると感情が露わになる気がするけれど、と緑谷は思う。
ただの「教師と生徒」以上の関係である事を知らない緑谷は、気の所為だろうと思い直す。
「…先生の話が本当であるのなら、純粋に、なぜこの学校に来たのだろうと思います」
飯田が挙手する。
しかし、その声は静かだった。
やはり彼も、この教室の空気に呑まれているのだろうか。