第30章 「時計」
──個性が、国を動かした。
次元が違った。
ヒーローで何番になるだとか、そんな話ではなかった。
ヒーローになりたいとか、そんな話とも違う。
生まれたその瞬間から存在を危険視され、そして危険ではないのだと証明する為に、齢1桁の頃に免許を取得した、と。
その上で厳戒態勢を取られているのだと。
実力のあるヒーローたちは皆、流衣を知っているらしい。
というのも、あまり実績を出せていないヒーローに変に情報を入れて外部に漏れる可能性を高めるより、実力派だけに伝えて精鋭に警戒させるだけに留めておきたい、ということなのだそう。
会ったことのあるヒーローも多いようで、少なくともこの学校の教師たちは、流衣が入学する前から知り合いだったようだ。
合宿前までは、クラスメイトから一線を引いていた。でも、今は少しずつ、こちらに歩み寄ろうとしている。
「「「「……………」」」」
クラスの沈黙が重い。
漸く心を開いてくれたと思えた、怠惰なのに優秀なクラスメイト。
彼女の過去は、その場の全員の心に重くのしかかっていた。
自分たちクラスメイトから、一線を引いていた理由が、何となく分かってしまったからだ。
今まで周りには、ヒーローと呼ばれる大人達しかおらず。自分は何も悪くないのに、国や警察からは監視体制を強いられ。
そして自分の事は、周囲には何も話すなと言われ続け。
心を閉ざすのには、充分すぎる条件が揃っている。
これでよくヒーローになりたいと思えたものだとも思うけれど、問題はそこじゃない。
「今…時暮はなんで来てねぇんすか」
沈黙を破ったのは切島だった。