第30章 「時計」
「…山田様ですね。2名様でご予約の」
「はい。俺とこいつです」
到着した施設は、辺鄙な街の辺鄙な場所にある、古ぼけた施設だった。
隔離施設というより、廃倉庫のような印象を受ける。
見張りなのか、受付なのかよくわからないこの小屋も、余りに古びていて、この施設を利用している者の社会的地位の低さが窺える。
「…申し訳ありませんが、個性をお聞かせ願います」
「俺はヴォイス…音に関するもので、こいつは抹消…目を開いている間、対象者の個性を消します」
「はい、少々お待ちください」
手続きは済ませているはずなのに、手違いでもあったのだろうか。
すんなり入るという訳にはいかないようだった。
そして5分ほどしてから漸く、
「あの…」
と。申し訳なさそうに、受付の男が声をかけてきた。
「手違いがありまして。
山田様は、ご面会ができません。お連れ様でしたら、個性使用を条件に、30分ほどなら」
訴えられても困りますので、とさらに男は契約書のようなものを取り出した。
「…これは?」
「ご面会なさる方には必ず書いていただいております。もし何かあっても、我々が責任を負うことはできませんので」
「…山田お前どうすんだ」
ここまで来たし、俺は会ってくるけど、と。
言うと、山田は面白くなさそうに返事をした。
「待ってるわ」