第30章 「時計」
「…へぇ」
「で、誰もその幼児には触れないらしい!
触った端から死んでくって話だからな。
来月、隔離施設に飛ばされるって話だ」
酷ぇ扱いだよなぁ、と山田は呟いた。
どうやらこの同級生は、その赤子をどうにかして助けてやりたいらしい。
確かに酷いとは思う。
赤子は何も悪くない──恐らく殺してしまったのは、個性なのだろう。
もしかすると、産声で耳血を出させてしまった自分と重ねているのかもしれない。
「…で、お前は俺に同意を求めるためだけに話したのか?」
何が目的だ。
そう続けると、 山田はへらっと笑った。
「お見通しかよ、つまんねーなぁ。
…面会時間を取り付けたんだ。消太も来ねえか?」
「一般人が行ってもいいものなのか?」
「俺は2人で予約してある。
本来なら行くことすらできねぇ代物だ、来ねぇならそれですっぽかされたって話しておくぜ」
俺は、このガキを救いたい。できることなら、ヒーローとして一緒に、と。
そう話す山田は、目が据わっていた。
まだ自分すらヒーローになってないだろ、とか、その大人たちの死因にガキが無関係だったらどうすんだ、とか。
ツッコミたいことは沢山あったけれど、同級生の熱心なその話に惹かれて。
幼児について興味が湧いてしまって。
翌月、相澤たちは──その施設に、向かうことになる。