第30章 「時計」
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「…そんな話、あるのか」
相澤は、マイク──当時はまだ学生で、ただ煩い生徒としか思われていなかった同級生──山田ひざしの話を聞いて、僅かに驚きを示した。
「おう。噂には聞いたことあるだろ?
産まれた瞬間に、親も医師も殺しちまったっつー、トンデモなガキ」
ああ、と相澤は頷く。
時期はわからないが、とある幼児が産まれた瞬間、その母体は動きを止めたと。
幼児に触れた医師は次々と不可解な死を遂げ、総勢7名もの大人が死亡したのだと言う話。
聞いたことならあった。
しかし、メディアでは全く放送されていない事と、幼児が人を殺めることができるほどの力を持っているなどとは到底思えない。
だから、それはあくまで噂の話であって、夢物語だと思っていた。夢というには、どうしようもなく血生臭い話なのだが。
しかし、山田は珍しすぎる小声で、相澤に耳打ちした。
「それがマジらしいんだよ!
俺の親戚に、病院関係者がいて…その人から聞いた話だから、ネタは確かだぜ?」
──それ、俺に話しても大丈夫なのか…?
そう思ったが、少しだけ興味を唆られた。