第30章 「時計」
「クロノス──この名前を、聞いた事はあるか」
相澤の静かな声が、教室に響いた。
昨日緑谷の部屋で争い(?)が起こったことなどなかったかのように、相澤は振舞っている。
放課後、既に他の生徒たちは皆帰宅している。
A組の生徒だけが残っており、そして、流衣だけが、その中で席を外していた。
感情の安定しない状況での個性使用が体にキているから休んでいるのだが、それをクラスメイトたちが知る由もない。
彼女に関係のある事なのだろうかと、皆一様にゴクリと唾を飲む。
これはとあるヒーローの名前だが、と前置いて。
相澤は、自らの人生を大きく変えた少女の話をぽつり、ぽつりと話し始めた。