第29章 教師と生徒
緑谷と轟、どっち?だなんて。
そんなこと。
──私が、消太を好きって選択肢は、ないのかな。
──好きになるなって意味?
歩みを進める度に、心が暗い質量を増していく。
何となく自室には戻りたくなくて、そのまま外に出た。
空からの冷たい感覚に、ようやく雨が降っているのだと気付く。
個性は使っていない筈なのに、周囲の音は全く聞こえなくて、全ての感覚が消失したかのようだ。
ツー、と頬を水滴が伝っていく。
季節は夏である筈なのに、心が、体が、全てが冷たい。
合理的な同居人の優しさが、自分のためだけにあると勘違いして、思い上がって。
──振られて。
挙げ句の果てに、好きな人は誰?と、彼からトドメを刺されて。
──馬鹿みたい。
期末テストの後、ご褒美と言って外に連れて行ってくれたのが嬉しかった。
初めてのデートだ、なんて浮ついてた自分が馬鹿みたいだ。
──ヒーローにもなれず。
──消太にも振られて。
──散々だ。
そんな暗い心の中。
頭上も厚い雲で覆われており暗く、さらに近くから影が流衣の頭を覆う。
しかし、
「風邪、引くよ?」
その声は。
流衣にとっては、救いの声のようだった。
それはまるで、──ヒーローのようで。