第29章 教師と生徒
とある日から、流衣の目には熱が篭っている。
それにすぐ気付いた相澤は、本格的に拙いなと思った。
本人は隠しているつもりなのだろうが、相澤はごまかされない。
いくら一緒にいると思ってるんだ、と思う。
嬉しさより、まずいという気持ちの方が強いのは、失う立場があるからだろうか。
それとも、守るべき立場にいるからなのだろうか。
判らないが、だからこそ、
「…流衣は、好きな人とかいるのか?轟?緑谷?どっちとも仲良いだろう」
"恋バナ"をするフリをして、流衣の好意を振り払う。
そんな目で見ないでくれと思う一方で。
自分以外をその目で見つめるなとも思う。
2人の男子生徒の名前を出したとき、流衣の瞳は哀しそうに揺れた。
──やめてくれ。
「私が……緑谷と、轟?」
──こいつは生徒だ。
「流衣はどっちを好きなんだ?」
まるで、その2択しか彼女にはないかのように。
軋む心に気付かない振りをして、相澤は揶揄う。
「えへっ、………秘密」
流衣は下手くそな笑みを浮かべて、部屋から出ていった。
その背中を見送って、そのまま窓の外に視線を遣る。
ああ、雨だな、なんて。
ぼんやりと、そんな事を思った。