第29章 教師と生徒
ザアアアア
雨の音が強い。
そんな天候の中、流衣は傘もささずに立ち竦み、そして俯いていた。
「 」
何かを呟く。
しかし、その言葉を聞いた者は誰もいない。
服が体に張り付く。
髪もびっしょりと濡れている。
頬を伝うのは、雨水なのか、それとも他の何かか。
どれくらい時が経っただろうか。
ふいに、流衣の頭に影がさした。
傘が、流衣をこれ以上濡らすまいと雨から遮っていた。
「風邪、引くよ?」
ぴくり、と流衣の肩が揺れた。
一見頼りなさげで、しかし最もヒーローに向いていると以前彼女が評した──緑谷だったからである。
「………………やは」
「どうしたの?」
「いいよね、緑谷は」
「なんで?」
「ヒーローの私でも、思うよ。…このクラスで次世代のオールマイトになるべきなのは、緑谷だって」
「…僕、思うんだけど。時暮さんは、別にオールマイトに憧れてる訳じゃないでしょ?それなのに、オールマイトを目指してるの?」
ゆっくりと、流衣は顔を上げた。
その表情は悲痛で、──そして、その頬に伝うものに緑谷は気付く。
「風邪引いちゃうかもしれないし、取り敢えず…僕の部屋、来る?」