第26章 少女はヒーロー
「切島落ち着けよ
こだわりは良いけどよ今回は…」
「飯田ちゃんが正しいわ」
「飯田が皆が正しいよ
でも!!
なァ緑谷!!
まだ手は届くんだよ!」
──まだ、手は届く…?
素人の高校生が何を。
調子に乗るな、と言ってやりたい。
相手は、路地裏で個性を持て余しているようなチンピラとは話が違うのだ。
プロに任せればいいものを、なぜ態々首を突っ込もうとする?
それほどまでに、「ダチ」とやらが大切だとでも言うのか?
──消太がどんな思いで、卵を潰さないために自衛しろって言ったか…まるで分かってない。
この時、彼女の心の中に、切島と爆豪の仲への羨望があったかどうかは分からない。
だが、確実にそれが影響したのは事実だった。
「ヤオモモから発信機のヤツもらって…それ辿って…自分らで爆豪の救出に行くってこと…!?」
芦戸の言葉。
しかしそこで、クラスメイトたちの声を黙って聞いていた流衣は、静かに、しかしはっきりと言い放った。
「今回ばかりは飯田に賛成。…行くにしても行かないにしても、私は協力しないからね、そんな馬鹿馬鹿しい話──帰る」
その言葉に、再び沈黙が訪れる。
クラスメイトたち──殊に、補習組のメンバーは──流衣がクラスの為に戦うことができずにいた事を、誰より悔しく思っているのを知っていた。
だから、彼女が冷たいとは思わない。
流衣は爆豪と親しいとは言えず、寧ろ犬猿の仲でさえあったのだが──本当に嫌いだったり興味がないのであれば、あの時あんな表情はしない。
それなのに、どうして馬鹿馬鹿しいとまで言い捨てたのか。
流衣の見せた、悲痛な面持ちは何だったのか。
それを知るのは、もう少し先の話になる。