第23章 林間合宿──少女の微笑み
席に着いて親しい者同士が近くにいるせいか、それとも「合宿」という響きにうきうきしているのか。
生徒たちはこれから何が始まろうとしているのか知る由もなく、皆が楽しそうにバスの中騒いでいた。
「1時間後に1回止まる。その後はしばらく…」
相澤が振り返るも、生徒たちは誰一人として話を聞いていない。
隣には、こちらに寄り掛かりながら熟睡している流衣。
相澤の肩に頬を乗っけて眠りこけており、その無防備な表情が愛おしいというか何というか。
先程までの寂しそうな表情は窺えず、また、寂しさを隠してしまう笑みもどこにも存在しない。
いつもどこか警戒しているかのような、心を閉ざしている様子もない。
ただただ、無防備に眠りこける流衣。
自分が隣で良かった、などと凡そ教師らしくない考えが浮かぶ。
緑谷だけは流衣の席を気にかけていたが、今はもう友人たちとの会話に夢中になっていた。
他の生徒も言わずもがな、楽しそうにしりとりなど始めている。
──まァいいか。楽しくいられるのも、今のうちだけだ…
流衣に対する心配と、この合宿での猛特訓の計画と。
それだけを頭に、相澤も流衣に凭れ掛かったまま、眠りについた。
目を覚ましたときに流衣が固まっていることに気付くのは、まだ少し、先の話。