第16章 職場体験
ただいま、と流衣はリビングに続くドアを開いた。
「おかえり。どうだった」
相澤がそちらを見ると、彼女は大きな溜息を吐いた。
「疲れた…国の人たち、堅すぎない?」
もうやだよあの人たち、と流衣は呟く。
そして、普段通りに相澤の隣に腰を下ろした。
そっと頭を撫でると、頭を預けてきた。
余程疲れているのか、既にもう眠そうだ。
「駄目だったのか」
「うん。実績出して、黙らせるかなあ」
「…リスクが高すぎるだろ。俺が反対だ」
確かに、出そうと思えば相手を黙らせるだけの実績くらい簡単に出せるだろう。流衣なら。
しかし、それでも罰則くらいは出るかもしれない。それが国なのだ。どうにかして、流衣を黙らせようと、抑圧しようと、──迫害しようとしている。
それにはれっきとした理由も存在するし、全く理解できないと言うと嘘になるが、それでも相澤としては流衣の力になりたかった。
だからこそ、あの時流衣を引き取ったのだ。
──何か、安全な手を探さないと。
──流衣が、強行手段に出る前に。
しかし、相澤の想いを嘲笑うかのように──事態は、加速していく。