休載P4A 【 My happy definition】
第8章 (私の話②)
親族の中で、私を引き取ってくれる人は見つからなかった。
そのため最寄りの稲羽市から離れた施設に保護されることになる。ここでの記憶は穏やかにゆったりと過ごしていたものが強く残っている。先生も周りの子たちも私に優しくしていてくれた。
「ルナちゃん、迎えに来たわよ」
ニコニコと笑う施設の先生と一緒に現れたのは、堂島千里だった。
「千里、さん?
・・・どうして」
「ふふ、どうしてだと思う?」
そのまま暖かく抱きしめてくれた。久しぶりに暖かい涙で顔を濡らす。ずっと私はここで暮らしていくんだと思っていた。私を思って抱きしめてくれる人がやってくるなんて。
「お母さんと約束していたからね」
私の耳にこの言葉は届かなかったけれど、千里さんの温もりがお母さんの温もりと重なって、それだけで伝わった。
「さぁ、お家へ帰ろう?」
遼太郎さんも私と距離を縮めようと、洋服やぬいぐるみをプレゼントしてくれた。
でも、そんなものより、お家に暖かな家族がいることがうれしかった。千里さんは絵本を読んでくれる。遼太郎さんはおやすみと言ってくれる。3人で川の字になって眠った。
それがうれしかった。
落ち着いてくると、少しだけ千里さんがお母さんの話をしてくれた。私はよく母がパートでいない時や、父が落ち着かないときに千里さんに預けられていた。
母がいなくて、寂しい気持ちもあったが、千里さんは遊んでくれた。母と千里さんは小さいころからの友達だったと。そして家の事情を母から聞いて知っていたと。
母の支えになっていてくれたようだ。
「ルナちゃんのお母さんに、一回だけ言われたことがあったの。何かあった時にはお願い、って」
きっと千里さんだって、その何かが実現するなんて思ってもいなかっただろう。
遼太郎さんを説得し、私を堂島ルナとして向かい入れてくれたのだ。
千里さんのことは、千里さんとずっと呼んでいたのでなかなかお母さんと呼べなかったが、遼太郎さんはすぐにお父さんと呼ぶことができた。
お父さんはすごく喜んでくれた。
私もとてもうれしかった。