休載P4A 【 My happy definition】
第8章 (私の話②)
私がまだ夜桜ルナだったころ。
父はよく大きな声を出して怒っているような人だった。比べて母は物静かでおっとりしたような人だった。
どれも小さい頃の記憶だから曖昧で、ただ1つ父は悪者だということは、はっきりと覚えている。
父は家に帰ると、きまって母にいつも怒っていた。なんで怒っていたのかはわからないが、いつもそう。そしてお酒を飲んでいた。それを飲むとまた強く怒る。
母がどんな悪いことをしたのか、小さな私はわからなかった。
そしてわからないまま、終わった。
5歳頃の時。
また父は怒っていた。いつも以上に。私も怖くて泣いていた。お仕事に行く時間になっても、父は家にいた。ずっとお酒を飲んで怒っていた。
母がお酒をやめるように言っていた気がする。
すると父は、母を殴りつけた。母を助けたかった、助けなきゃって、思った。
思っただけで、私は怖くて動けなかった。お布団に隠れたかった。逃げたかった。
何発か叩かれた母は、よろよろと力なく立ち上がった。そして、私が覚えてる中でも、一番の大きな声を出したかと思えば、また父に殴り飛ばされていた。
おかあさん、おかあさん
私の声は聞こえていたのかわからない。
恐る恐る近づいていると、私は父に蹴り飛ばされ、起き上がろうとした時には、母の壊れたうめき声だけが聞こえた。
なんと言っていたのかは、わからない。もしかすらば私の名前を言っていたのか、助けを求めていたのか、怨みを述べていたのか、父の名を呼んでいたのか。
母は包丁で何度も刺されていた。涙で視界がはっきりとしていなかったが、母の顔はそこにはなかった。私のお母さんはもう笑ってはくれない。もう話しかけてはくれない。もう2度と名前を呼んではくれない。
すぐに理解した。
小さな私は、次は私がこうなるんだと。母の手を握った。
すると、父はわけのわからない奇声をあげ、何処かへとそのまま走って行ってしまった。
父ともそれが最後だった。
なぜ父は泣いていたのか。
----自分で選んだことなのに