第8章 現実逃避行
「入院?」
「……そう。
ちょっと、肺炎気味なんだって」
の通っている病院は、県内でも割りと大きく、設備の整った総合病院だった。
待合室のソファーに腰掛けながら、缶ジュースを飲む。
定期検診があったから来たものの、の熱はあまり下がらず、咳がひどくなり始めたところだった。
酷いときは夜中は眠れず、たまに吐いたりするほどだった。
「…今日このあとから…、なんだって…」
「設備がある環境の方が良い」
「そう、だね…」
は寂しそうに言う。
それはこちらも同じ気持ちだったが、毎日苦しんでいるよりかは少しでも治療に専念してくれた方が良い。
「毎日、見舞いする」
「そ、そんな、部活もあって大変だから…気にしないで…?」
「俺がそうしたいんだ」
「……ありがとう、無理、しない範囲で…」
「後で着替えとか持ってくる」
彼女は、うん、と柔らかく返事すると、看護士に部屋を案内されていった。
病院のベッドで横たわるは、寄りいっそう脆く儚く見える。
明日にでもそうなってしまうんじゃないかと思わせる。
(縁起でもない)
急いで考えを振り払うと、飲み物と荷物を手渡した。
面会時間ギリギリまで話し、待合室にいた恐らく彼女の母親であろう女性と目が合った。
向こうはインターホンで俺の顔を知っている。
それでわかったのだろう。
医師からの説明を聞いている途中で立ち上がり、
「私とあの子はもう他人でいいわ。
説明も何もこっちにしてあげて」
「ですが、未成年ですし…書類も…」
「はいはい、先にそっちを片付けるからもう話はしないで頂戴。
興味ないの」
医師から書類の束を預り、目も通さずに勝手に署名と印鑑を押して帰って行った。