第8章 現実逃避行
季節の移ろいは早く、暑くなったり夜は冷えたりを繰り返す。
それは、彼女の身体には少し負担が大きいらしい。
「38度だな…」
「ううっ……テスト近いから授業、受けたいのにぃ…」
「そんな鼻声で何を言う。
元気になってからまた勉強すればいいだろう」
「…はーい…」
しょんぼりと涙目では布団に潜った。
登校時間に寂しそうに見送りにきた姿がなんとなく刺さる。
「いってらっしゃい…」
ただでさえ消えそうな声をしているのに、ますます小さな声だった。
「行ってくる」
誰も家にいないのをいいことに、唇をそっと重ねる。
は驚いて、すぐに一歩下がった。
「う、うつっちゃうから…」
「うつせ。俺なら一瞬で治る」
「……ダメ」
小声でそう言うと、また赤面して伏し目がちに見送ってくれる。
あまりの健気さに、このまま休んでしまいたくなる。
振り返らずに家の鍵を閉めて出掛けた。
彼女は結局この日から、夏休みが明けるまで登校することは出来なかった。