第4章 御伽草
当日はもう夏の暑さだった。
からっと乾燥した空気が気持ちいい。
昼過ぎにの家を訪ねる。
「いらっしゃい」
小声で出迎えてくれて、いつものように中へ入る。
「お邪魔します」
早速、勉強道具を広げるも、ゴールデンウィークの予定の話などをしてしまってなかなか進まない。
コンビニで買ってきた飲み物をわけ、のんびりとテスト範囲の確認をしながら付箋を教科書に貼った。
は取り分け頭がよかった。
編入試験の合格点数は大幅に上をいっていたらしく、担任もかなり誉めていた。
「勉強なら…見られないで出来るから…」
と少し照れ臭そうに言っていた。
教えるのは緊張するから、と言っていたが、質問しても的確に答えてくれ、かなりわかりやすかった。
声が聞こえない分、紙に書いての説明が見やすく、繊細な彼女の文字は見た目そのままで、なんとも愛おしい。
「このテストが終わったら、三者面談だが、は誰か頼れるのか?」
「……ううん、せ、先生にも…言ってある……。
でも、私…、多分、長く生きられないから……」
「…は?」
「高校、卒業出来るかも、わからないの……。
でも、もう、全部覚悟してる……」
何を言っているのか理解するのに時間がかかった。
がいなくなる?
初めて会って、初めて好きになって、一生涯近くでいたいと思ったその相手が、いなくなる。
「聞いてない」
「ご、ごめんなさい……」
「なんでだ」
「元々、小さい頃から、身体が弱くて……、
産まれた時から、いつには死んでる、いつには死んでるって、言われ続けてきたの……」
「でもお前は生きてる」
「…そうだね。
でも、次こそは、私の身体は、成長に追い付いていないから、ダメかもって……」
「まだわからない」
「…うん…。牛島くんがそう言ってくれると、心強い…」