第1章 俺の執事
郁翔side
危なかった……
俺は蓮様の部屋を背にして、口元を塞いでいた。
『キスをしてくれたら許す』
あの人の事だから、きっとあれは俺を試すために言ったことだと思う。
俺自身も許して欲しくて別にキスで許されるならそれくらいどうってことなかった。
だから迷い無くできた。
しかし、思っていたより蓮様の唇は柔らかく、表情も驚くほど可愛かった。
今まであんなに可愛いとは思わなかった。
その瞬間、俺は蓮様に興奮してしまった。
そんな感情を持っているわけでもないのに……
もしかしたら疲れているのかもしれない。
早く何か作ってあげないとまた機嫌が悪くなる。
そう思い、調理場に向かった。
夕食前という事もあり、あまりお腹にたまるものは作れない。
何を作ろうか迷ってる間も、蓮様のあの顔が過ぎってしまう。
駄目だ……
集中できない……
そんな感情を持っては駄目だ。
俺は執事。
蓮様は命をかけてでも守る。
そう決めたはずだ。
その先の感情を持ってはいけない。
分かっていても、胸はドキドキと高鳴る一方で……
もう、認めるしかなかった。
俺は蓮様の事が好きなんだ。