第5章 どうにでもなれ
郁翔side
返済済みってどういう事だ。
祖父と両親の分を合わせてあと3分の1くらい残ってるはず。
だからこの仕事を受け入れたのに。
「おい、餓鬼。それ以上喋るな。本気で殺すぞ。」
「嫌だね!」
蓮様が男の腕を噛みつき、力が緩んだ瞬間に逃げ出してきた。
「郁翔!よく聞け!お前の爺さんは借金なんてない!自分で返してるんだ!」
「え・・・じゃあ俺は何のために・・・」
「いってぇな!この餓鬼!!」
銃声が響き渡り、目の前の蓮様がその場に倒れた。
「っ!?」
「うっ・・・いって・・・」
しゃがみ、蓮様の体を見ると太もも辺りから血が流れ出ていた。
「くそ・・・余計な事言いやがって・・・まぁいい。郁翔、戻ってこい。」
「・・・嫌です。俺は戻りません。」
もうこれ以上、悪に手を染めたくはない。
これまで何人もの人を騙し、金を取った。
「もうお前には俺らの所しか居場所はねぇんだよ。今更裏切った西園寺家にも入れてもらえねぇだろ。・・・戻ってこい。じゃねぇと次は頭をぶち抜く。」
そうだ・・・家族もいない。
居場所なんて何処にも・・・
蓮様と過ごした日々が蘇ってくる。
あの頃に戻りたい。
「郁翔・・・逃げろ・・・早く。俺はいいから。」
「蓮様、置いていけません。」
「いいから逃げろ!どうせ俺はもう動けねぇ!アイツらの所に言っちゃダメだ!」
「蓮様・・・」
この人はどうしてここまで俺を・・・
「郁翔・・・頼む。行ってくれ。」
「・・・申し訳ございません、蓮様。」
「いい。早く置いて行け。」
「・・・俺には・・・できません。」
蓮様をお姫様抱っこし、室内を逃げ回り物陰に隠れた。