第5章 どうにでもなれ
郁翔side
「・・・初めはそのつもりでした。ですが、私はこの仕事を放棄し逃げたんです。これ以上はあなた方を裏切りたくなかった。」
俺がお金を持っていくように来たのも、俺が途中で放棄したためだ。
借金の返財がまだ終わっていない。
西園寺家の大事なものはただ1人の息子。
そして、俺が好きになってしまったのも知ったのだろう。
だから、誘拐した。
同時に金も手に入る。
あいつらが西園寺家に何の恨みがあるかは分からない。
結局、西園寺家の弱みも握れなかった。
だからせめて金だけでもと思ったんだろう。
「・・・とりあえず警察に・・・」
「駄目です。そんなことしたらきっと蓮様は・・・」
「君にはもう用はない。蓮にも近づくな。」
「ですが!このまま警察に言えば蓮様の命が!」
「君はもう執事ではないんだ。赤の他人だ。時間切れまであと1時間も無い!どっちにしろ今からじゃ金は間に合わない!」
「待ってください!西園寺様!」
揉めあっていると、新しく入ったであろう執事が封筒を持ってきた。
「西園寺様、こんなものが送られてきました。」
中身はDVD。
近くにあったパソコンに入れ、確認してみる。
映し出されたのは映像。
『あと1時間です。早くしないと息子さん死にますよ。』
蓮様がひたすら痛めつけられている映像だった。
体と顔が血だらけでボロボロだ。
「っ!?蓮!!」
『それから、警察に連絡すれば・・・即殺します。急いでくださいね。』
蓮様が一生懸命何かを言おうとしてるのが見えた。
『かはっ・・・うぐ・・・いく・・・と・・・』
俺の名前を呼んでいた。
____来るな_____
確かに口がそう動いた。
映像がそこで終わり、暗くなった画面に自分の情けない姿が映る。
・・・好きな人が・・・あんな目にあっているのに・・・いいのか?
俺は逃げてもいいのか?
そんな事・・・出来ない。
蓮様は俺に幸せな時間をくれた。
逃げるなんてできない。
俺は家を飛び出し、例の場所へと向かった。