第1章 帰郷
「それにしても、よく笑うようになったわね」
リエの好物のみたらし団子をテーブルに置き、ミツはしみじみとリエの顔を見つめた。
初めて会ったときのリエは、影を落とした顔に表情はほとんどなかった。
旅人がよく訪れるこの店では様々な事情を持った人と接する。
その中でも、リエの瞳は一際目を引いた。
苦しみの渦の中を、必死でもがいているように見えた。
言ってもまだ幼い女の子が、どうしたらこんな瞳になるのだろうとミツは初対面からリエを気にかけていたのだ。
一緒に過ごすうちに、リエには少しずつ表情が戻っていった。
少しは笑顔を見せるようになった頃、リエはどうしてもやりたいことが出来たと、居候生活を終わりにしたのだ。
「色々ご心配をおかけしました。皆さんのおかげもあって、この三年で少しは変われました」
「少しなことかね。見ただけでわかるよ。色んな壁を乗り越えて、立派に成長したってね」
ミツの言葉が、リエは素直に嬉しかった。
本当に、色んなことがあった三年間。
たくさんの人に出会った。
誰にも言えない秘密も抱えた。
死ぬかもしれないと思ったこともあった。
でも、楽しいと心から思えることもあった。
出会いが、経験が、今の自分をつくってくれた。
「で?これからどうするの?」
そう問う微笑みを浮かべたミツは、リエの答えを知っているようだった。
「故郷に…木ノ葉隠れの里に、帰ります」
悲しみに暮れ自らの足で出た里に、ようやく帰るときが来たのだ。