第1章 white eyes
いくつもの記憶を取り込みながら流れているうちに、セフィロスのいた場所へ戻っていた。
「戻って来られたようだな」
「どういう意味?」
「大抵の人間は、この光の洪水に流されると自我を保てなくなり、消滅する」
シャロンは、はぁ、と気の抜けた返事をして、辺りを浮遊した。
「どうした? 元気がないようじゃないか。記憶を見てきたんだろう?」
「うん……まぁ……ね」
「フ……相当ショックを受けたか」
漂いながら、実態のない自分の肉体を眺める。
「どうして人は、体を求めるのかしら」
「性交渉という意味か? なら簡単な事。男はよりいい女を支配したがる生き物だからだ」
「わからない……」
「どうやら俺の女神様は自分の魅力に気づいていないらしい」
セフィロスが長いまつ毛を優美に仰がせる。
彼女はぼんやりとそれを眺めた。
(こうして見ると、あまり似ていない……)
頭に浮かぶのはルクレツィアの面影。
(けど……口元は、少し似てるかな)
「なんだ? 人の顔を見詰めたりして。この容姿がお気に召したなら光栄だがな」
セフィロスは見下すように笑ってみせる。
これまでその容姿に惹かれて近づいてくる人が何人もいたのだろうということは想像に容易いが、彼女にはそんなつもりはない。
「私を他の人達と一緒にしないでくださる」
「それは失敬。俺の女神は唯一無二だ」
「えっ」
「……なんだその蔑むような目つきは」
それは照れ隠しでもあった。
いくら恋愛感情がなくとも、甘い言葉を囁かれれば照れ臭かった。
(ばかね。彼はルクレツィアの息子なのに)
シャロンはそれでもセフィロスの横顔から目が離せなかった。
彼女はこんなことを考えた。
セフィロスは母の愛を知らずに育ち
ルクレツィアは息子に母だと言うことも出来ず引き離され
二人はそのぽっかりと空いた空洞を埋めるために、別の何かを求めていたのかもしれないと。