第10章 ONE MORE KISS
数日後、ヴィンセントの電話機に着信が入る。
「もしもし? リーブです」
「リーブか……何の用だ?」
「これから少しお時間もらえませんか?」
「……面倒事は御免だぞ」
そう言いつつ、ヴィンセントは待ち合わせの小喫茶へ足を運んでいた。
「突然呼び出ししてすみません」
「何の用だ?」
「実は、こちらの書類にサインを頂きたく」
「面倒事は御免だと言っただろう……」
電話口での会話と同じやりとりにリーブは苦笑しつつ話を進める。
「実は、先日の戦闘で大変お世話になりましたので、あなたに報酬を受け取ってほしいのです。こちらはその同意書です」
「……受け取りかねるな」
「そう言わずに。皆あなたの活躍に感謝しています」
ヴィンセントは特別興味がないと言った様子で腕を組んでいる。
彼が意外と頑固なところのある男だということを知っているリーブはひとまず話題を変えることにした。
「そういえば、彼女はどうしていますか? あなたと一緒なんですよね?」
「ああ」
「その後、何か進展はありましたか?」
「進展? どういう意味だ?」
勿体つけるつもりなのか、言いたくないのか、ヴィンセントは視線を逸らしたまま核心を避けた。
「以前言っていたでしょう、彼女と共に生き」
「それ以上言うなら帰るぞ」
「……それで、告白できたんですか?」
ヴィンセントは、緩みそうになる口元をマントに隠すと、ぼそりと答えた。
「先日、伉儷の契りを交わした」
「……は」
「つれあいになってくれるそうだ」
「本当ですか!」
リーブは大きな音を立てて立ち上がる。
「それなら、是非私にお祝いさせてください! せめて祝いの場を設けさせてくれますね?」
「そんな義理は……」
「ヴィンセント、あなたに感謝している人は大勢いるんです。彼らの気持ちも汲んでもらえませんか?」
「ふぅ……仕方ない」
ヴィンセントはリーブの話をシャロンのところへ持ち帰った。
彼は、彼女はもっと粛々と生きていくことを望んでいるものだと思っていたが、それは違った。彼女は、愛情深く、人間らしい女だった。
「お祝い?」
「ああ。世間では男女が夫婦になると、宴を行う……。その場を、用意してくれるのだそうだ」
「そうなのね。宴、いいじゃない。復興に向けて、盛り上げていくきっかけになったらいいね」
