第10章 ONE MORE KISS
シャロンは、ヴィンセントがあまりに自分を神格化するので恥ずかしくなり、とうとうふり向いて反論した。
「私、そんなんじゃない」
「だが……わからないだろう? 君には伝承さえ変える力がある。私には今でも君が女神のように思えるよ……」
「違うわ。あなたこそ本物の神様よ。世界を救ったんだもの」
二人の間に沈黙が流れる。次第にシャロンの眉尻が下がり、困り顔になってしまった。
「……それが、拗ねていた原因か?」
「私、拗ねてる?」
シャロンはあからさまに視線を外す。恥ずかしそうに頰を真っ赤に染めながら瞳を潤ませるシャロンがあまりに愛らしく、ヴィンセントはとうとう声を出してしまった。
「馬鹿にしてるでしょう」
「いや……」
「じゃあ、子供みたいに拗ねる私に呆れてしまったの?」
「そうではない……君があまりにも愛おしくて……」
そう言いながら、ヴィンセントはシャロンの体を自分の胸に寄せて抱きしめた。抵抗することなくおとなしく抱かれているシャロンに愛しさを募らせていく。
シャロンは、速度を上げる鼓動を感じながら、彼の香りに酔いしれた。運命が違えれば二度と感じることの出来なかった彼の低い体温。
「……私……」
「ん……?」
「やっぱり、拗ねていたのね……」
「……そうか……」
ヴィンセントは、シャロンをあやすように肩や背中を撫でつけた。シャロンを落ち着かせて、目一杯の笑顔を向けて欲しかった。はやく彼女の瞳を自分に向けて欲しかった。
「あなたが遠くに見えた時、美しいなって思うと同時に、怖かった……。あなたの力を信じていたつもりだったけど、あなたを思えば思う程不安が付きまとうの。あなたは世界のために戦ってくれたのに、あなたが犠牲になってしまったらと思うとどうしようもなくつらかった」
再び泣き出してしまいそうなシャロンの震声を聞き、ヴィンセントは抱きしめる力を強めた。
「それは、私も同じだ……、君は時々、本当に無茶をする。あの時も、君は自己犠牲を選んだだろう?」
「……救いたかったから……愛するあなたと、あなたの生きるこの世界を」
止めどなく溢れる涙を止められず、シャロンはヴィンセントにもたれかかる、
「今回は……私の想いが成就してよかったと心から思うよ……。私は、君と生きる為に戦ったのだから」