第10章 ONE MORE KISS
ヴィンセントはシャロンの頭を優しくあやすように撫でる。
服を軽く掴み額を押し付ける彼女がとても愛おしく、強く抱き締めたい衝動に駆られるが、繊細な彼女を傷付けないために彼はマントの力を借りる。
この布を使う事で、包み込むという動作が出来るから。
「ここに居てくれてよかった……。ようやくきちんと迎えに来ることが出来た……」
「………寂しかったよ」
「あぁ……すまない。約束を果たすのに、20年もかかってしまったからな……」
「20年……?」
「……いや、30年か……?」
シャロンの思考が止まる。
彼が姿を消していたのは1週間ほどだったはずだが。
様々な景色が頭の中を駆け巡って、出てきた映像は故郷での別れのシーンだった。
「まさか……10代の頃の話をしているの?」
「おかしいか?」
「ううん……」
初めて出会って、初めて離れ離れになった時。
『また必ず会いに来る』
「あの時の約束を果たしてくれるというの?」
「随分遅くなったがな……」
ぞくりと熱い血が身体を走り、シャロンの頬に涙の筋が光る。
その涙を指で拭い、ヴィンセントは彼女にこれまでの自分の心境を吐露した。
「君は……ずっと私を探してくれていた……。私の身を案じ、側で守ってくれた。君の前では、私は時に情けない男になってしまう。……私はしばしば、君がとてつもなく遠い存在に感じていたよ」
シャロンが少し驚いたようにぴくりと反応した。ヴィンセントの自分に対する評価が意外だったのだ。
「……君は常に完璧だ。神羅にいた頃……君の担当研究員に話を聞く度驚かされた。頭脳解析、身体能力……データを取る度記録を塗り替えて底が知れないと……。そうでありながら、君の眠る姿は儚く美しかった……」
「眠っているところ、見ていたの?」
「すまない……。自由になる時間が疎らだったのでな……」
頬を膨らますシャロンは暗がりでもわかるくらいに照れた様子で、ヴィンセントは少し笑ってしまった。無論、声には出さない。シャロンはヴィンセントの方を向いていないから、気づかれることはないだろう。
「君は……どこかの女神になるために産まれてきたのではないかと……人類が、この星から無理矢理君を奪ったのかもしれないと……世話役と話したものだよ……」