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FFVII いばらの涙 綺麗譚

第10章 ONE MORE KISS


 水辺に腰掛け、膝を抱えながらシャロンは一人空を見上げていた。
彼女は、なぜか、自分だけが生き残ってしまったと打ちひしがれる。
目が醒めた時、隣に彼はいなかった。側にいたような気がしたのはライフストリームの影響だったのだろうか。
彼女の生まれ故郷の泉は今日もうつくしい。この景色が残っていることを嬉しく思ったが、彼の命と引き換えということならば、彼女にとって代償はあまりに大きすぎる。

世界の救世主、カオス。
神とも言える存在である彼の居場所はここではなくなってしまったのだろうか。
カオスがオメガに衝突した時、シャロンの耳に微かに彼の声が届いていた。

「君の犠牲の上に成り立つ世界を私は愛せない」

そっくり同じ言葉を彼に返したかった。

「ヴィンセント……あなたのおかげで、この美しい世界は救われたよ。だけど……あなたがいなきゃ、意味がないじゃない」

水辺に咲く小さな花を眺めながらぽつりと呟く。
その直後、穏やかな風が一瞬だけ通り抜ける疾風に変わった。一輪の花が風に吹かれて体を横に倒し、元に戻ると同時に、シャロンの肩に暖かな温もりが感じられた。

「待たせたか……」
「……ずるいよ……こんなの」

赤いマントに官能的な闇の香り。シャロンの心は満たされ、その頬を赤く染め上げた。ヴィンセントはシャロンの隣に座り、そっと頭を撫でる。

「なんだ、拗ねているのか……」
「拗ねてなんかいないわ」
「なら……こちらを向いてくれないか……」

シャロンは少しだけ顔を傾けたが、ヴィンセントの方を向くことはしない。彼女の瞳には涙が溜まっていた。

「シャロン……」

小さくなったシャロンの体に腕を回し、マントの中に包み込むと、シャロンの腕がきつく体に巻きつく。彼女の頬からは大粒の涙が零れマントに暗い染みを作った。

「不安に……させてしまったらしいな」
「ううん……」

ヴィンセントは、シャロンの弱さを知っている。強がってみせるが、気を許した人の前では完璧な演技が出来なくなる。それがわかるからこそ愛おしい。自分が彼女に必要とされている気がして。
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