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FFVII いばらの涙 綺麗譚

第10章 ONE MORE KISS


 ヴィンセントは、外の風に当たり深呼吸をした。
無くなってしまっていたかもしれない世界が、今はいつにも増して美しく見える。
ヴィンセントの傍に立つ少女も同じく深呼吸して、彼に問いかけた。

「なぜ私が迎えに行かされるのでしょう」
「さあな」

素っ気ないようでそうではない応答の仕方にシェルクも慣れたようで微笑みを浮かべていた。

「皆が集まるにはまだ一人足りないようですが」
「そうだな……」
「シャロン……。わかるんですか? 彼女の居場所」

シェルクが彼に問う。

「世界を救ったと確信できた時……脳裏に浮かんだ光景がある……。私は、世界を救うと言いながら、心の中ではごく個人的な事を考えていた……」

核心を避けた口ぶりがいじらしい。シェルクは小首を傾げながらヴィンセントの言葉を待った。

「つまり、私はこう考えていた……《彼女と生きる》この世界を守れた……と」
「貴方らしいですね」
「……そうか……」
「意外と欲深いですから、貴方は」

ヴィンセントは俯き口元をマントの襟に隠した。
数年前、クラウド達と行動を共にしていた頃、セフィロスとの決戦前にした会話を思い出す。
世界を救うなんてのは建前で、これは個人の戦いなんだと。そんな話だった。

「それで、その話は彼女の居場所とどう繋がるのでしょう?」
「ああ……私が彼女を想う時、決まってある場所が頭に浮かぶ……シェルクにはまだわからないかもしれないが……」
「馬鹿にしないでください。これでも二十歳なんですよ」
「そうだったな。つまり……直感だ。彼女も、私と同じ想いでいてくれるならば……待っていてくれるだろうと……」

シェルクは小さな体でヴィンセントを見上げ、小さく笑った。

「わかっているなら、早く行ってあげてください。きっと、待ってますよ」
「ああ……そうだな。行ってくるよ……」
「あ、そうでした。ヴィンセント・ヴァレンタイン。あなたは彼女のラストネームを知っていますか?」
「さあな……。だが知る必要もないだろう。彼女のラストネームは、私が……」

ヴィンセントは僅かに口角を上げると、マントを翻し立ち去っていった。その顔は少し得意げに見えた。
シェルクは、ヴィンセントの背中を見送りぽつりとつぶやく。

「SNDで見たシャロンの記憶……。彼女の居場所は、あなたには教えるまでもありませんでしたね」
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